部長から「来月の得意先とのゴルフコンペ、田中たちだけじゃ人数が足りないから、お前も回ってくれ」と言われたのは、6月の終わりだった。学生時代に数回、先輩に連れられて打ちっぱなしに行った記憶はあるが、コースを回るのは初めてだった。断れる空気ではなかった。
当日、レンタルのクラブで18ホールを回った。スコアは136。同伴した得意先の担当者に「今日から本気で始めてみたらどうですか」と、笑いながら言われた。隣で部長も苦笑いしていた。悔しさより先に、恥ずかしさのほうが勝った。
そもそも、自分からやりたいと思ったことは一度もなかった
ゴルフというもの自体に、興味があったわけではない。会社の付き合いで回るのは今回が初めてだったが、周りを見渡すと、取引先との接待や社内のコンペで年に何度かクラブを握る同僚は珍しくなかった。自分だけがそこに入っていなかっただけで、遅かれ早かれ避けて通れなかったのだと思う。
始めた理由を聞かれたら、僕は正直に「やらされたから」としか答えようがない。
帰りの新幹線で「ゴルフ 初心者 上達 早い」と検索した
136というスコアがどのくらい悪いのか、自分では判断がつかなかった。帰りの新幹線でスマホを開いて検索すると、100を切れば一人前という書き込みが多く、136は初心者の中でもかなり下のほうらしいことが分かった。
次にコンペに呼ばれるまでに、多少はましな数字にしておきたい。それだけが目的だった。
週末の打ちっぱなしは、3回で途切れた
まず近所の練習場に通ってみた。空いている打席に入り、球をひたすら打つだけで、フォームが合っているのかどうかは自分では分からない。動画を撮って見返しても、どこが悪いのか判断がつかなかった。
3回目に行った週末、子どもの用事と天気が重なって行けなくなり、そのまま足が遠のいた。数字が良くなっている実感もないまま、ただ球を打ちに行くだけの時間には、続ける理由を見つけられなかった。
駅近のインドアゴルフで、スイングを数字にしてもらった
会社帰りに寄れる場所を探して、駅近にあるインドアゴルフスタジオの体験ページにたどり着いた。RIZAP GOLFという、あのライザップと同じグループが運営しているインドアゴルフだった。3,300円の体験診断があり、天候に左右されない完全個室で、専属トレーナーがつくらしい。
予約して行ってみると、スイングをその場でカメラとセンサーで計測し、画面にデータとして映し出された。感覚では分からなかった「クラブのどこがどうずれているか」が、数字とグラフで出てくる。打ちっぱなしで3回続けて分からなかったことが、1回の診断で言語化された。
診断の最後に、今のスコア帯なら2ヶ月のコースでまとまった変化を出しやすいという説明を受けた。136という数字を告げると、担当のトレーナーは「そのあたりのスコアの方を、何人も見てきています」と言った。
次のコンペまでの日数を数えて、申し込んだ
正直、まだ本気でやりたいとは思っていなかった。ただ、次に呼ばれるコンペまでの日数を逆算すると、悠長にしている余裕もなかった。
案内されたのは、全16回・2ヶ月のコースで、料金は382,800円、別途入会金が55,000円。決して安い金額ではなく、その場ではすぐに返事ができなかった。それでも、30日間は全額返金保証がついていて、合わなければ引き返せると分かったことが、最後の一押しになった。「やらされて始めたことに、ここまで出すのか」と自分でも思ったが、次に同じ思いをするほうが嫌だった。
毎回のレッスンで、数字が更新されていった
コースが始まってからは、行くたびにスイングのデータが画面に出た。前回より数値がどう変わったかが、その場ではっきり分かる。最初のうちは「やらされている」感覚のまま通っていたが、数字が良くなっているのを見せられると、素直に次の回も更新したくなった。
気づけば、レッスンの予定を自分から前倒しで入れるようになっていた。始めた理由は他人からの指示だったのに、続けている理由はいつの間にか、自分で更新した数字を見たいからに変わっていた。
次のコンペで、136は98になっていた
2ヶ月のコースを終えて数週間後、また同じ得意先とのコンペに呼ばれた。18ホールを回り終えて出たスコアは98。
前回「今日から本気で始めてみたらどうですか」と言った担当者に数字を伝えると、少し驚いた顔をされた。部長からは「え、本当に本気でやったのか」と言われた。
100を切ったこと自体より、136から98まで、自分の変化が数字として残っていることのほうがうれしかった。次のコンペまでにもう少し縮めておきたいと、もうスケジュールを確認している。


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